2025年6月10日(火)、水道橋のTOPPAN小石川本社ビルにある『印刷博物館』に行ってきました。
中世の三大発明といわれる『火薬』、『羅針盤』、そして本博物館の主役である『活版印刷術』。
ここでは、貴重な資料を通して『情報伝達』と『印刷』にまつわる歴史を詳しく学ぶことができます。
歴史的にも価値の高い実物資料が数多く展示されており、その迫力と奥深さに圧倒されました。
一企業が運営しているとは思えない、想像をはるかに超える充実した内容でした。
さすが大泉洋、さすがTOPPAN!
べたきちが最近訪れた展覧会(特別展『蔦屋重三郎』(過去記事)、『五大浮世絵師展』(過去記事)、『チ。展』(過去記事)とのつながりも随所に見られ、理解がいっそう深まりました。
印刷や出版に関心のある方はもちろん、浮世絵好きの方、歴史好きの方、マンガ『チ。』のファンの方、デザインを学んでいる方など、あらゆる方におすすめです。
平日に訪れたため、子どもの姿は見かけませんでしたが、歴史好きなお子さんなら夢中になること間違いなしです。
なお、企画展『黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版印刷文化』は、7月21日(月・祝)までの開催ですので、お見逃しなく。
他のミュージアムの記事、谷根千の記事、障がい者割引の記事はこちら。
※行く前は印刷博物館公式サイトで最新の情報を確認してください。
※記事内の価格は、訪問当時のものです。

車いす・ベビーカー貸出

車いす・ベビーカーは、地下一階の会場入口の受付スタッフの方に声をかけると貸してもらえます。
利用は無料です(感謝)。
車いすユーザーの方は、地下一階会場へエレベーターで行くことができます。1階で近隣のスタッフの方に、その旨をお伝えください。
料金・障がい者割引
料金(企画展開催時は変更あり)
個人 | 団体(20名以上) | |
一般 | 500円 | 450円 |
学生 | 200円 | 150円 |
高校生 | 100円 | 50円 |
・70歳以上 | 中学生以下無料 | 無料 |
※企画展開催時には、入館料変更の場合があるため、公式サイトを確認してください。
※現在の企画展『黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版印刷文化』の開催期間中は、入館料は一般1,000円、学生500円、高校生300円、中学生以下無料です。
障がい者割引
障がい者手帳等所持者とその付き添いの方は、無料です。
対象の手帳について博物館にメールで問合せたところ、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3つの手帳が該当するとの回答を頂きました。
なお、指定難病受給者証は該当しませんのでご注意ください。
混雑状況・所要時間など
混雑状況
火曜日の14時20分に入館しましたが、混雑しておらずゆったりと観覧できました。
団体利用がある場合や週末は、混雑することもあるようです。
公式サイトによると、「1日平均100人前後」の来場者数とのことです。
所要時間
私達は、14時20分〜16時20分の約2時間かけて観覧しました。
公式サイトには、見学時間は「平均的に45分~1時間30分くらい」と記載されていましたが、非常に見どころが多かったため、しっかりと時間をかけて観覧しました。
もっと時間をかけても良いと思えるほどの、素晴らしい展示内容でした。
興味関心の程度により、かなり所要時間が変動すると思います。
バリアフリー情報
全体的に道幅は広く平坦で、バリアフリー対応になっており、車いす上での観覧でも困ることはありませんでした。
べたきち的見どころ
《木製手引き印刷機》

まず、入ってすぐ左側に鎮座しているのが、世界最古の『木製手引き印刷機』の大きなレプリカ。
これを見てすぐに思い出したのが、マンガ『チ。』で印刷が行われる場面でした。
「この印刷機が世界を変えたのか!」と感動しました。
宗教や科学について学べる作品で、ぜひ一読してほしいマンガです。全8巻で完結しているため、大人買いもしやすいです。
土日祝日の15時からは、インストラクターによる印刷実演も行われているそうです。
実演を見られなくても、映像で使用方法が丁寧に説明されており、とても分かりやすかったです。
次回は、印刷実演の時間に合わせて来館したいと思います。

プロローグ 《フェナキスチスコープ》


プロローグの回廊では、古代から現代に至るまでの情報伝達の歴史をたどることができます。
『ラスコーの洞窟壁画』や『ロゼッタストーン』など、歴史の教科書で目にしたことのある有名な資料のレプリカが展示されており、ここだけでも十分に見応えがあります。
展示資料には一切解説板がないため、より深く理解したい方には、公式サイトの「施設案内」にあるPDFファイル『展示資料一覧』をダウンロードして、眺めながらの観覧をおすすめします。
べたきちとしては、回廊の終盤にある『フェナキスチスコープ』をぜひ体験してほしいです。
スタッフの方に勧められて立ち寄ったのですが、印象に残りました。
『フェナキスチスコープ』は、1830年代に発明された、アニメーションの原点ともいえる“動く絵”を見るためのおもちゃです。
小さな隙間から覗くことで、『映画の原点』を体感でき、当時の人々の楽しみ方に思いを馳せることができます。
重要文化財《駿河版銅活字》徳川家康


17世紀初頭、徳川家康によって造られた日本最古級の金属活字『駿河版銅活字』(重要文化財)。
この『駿河版銅活字』は、製作に手間と費用がかかるうえ、『木版印刷』のほうが安価で扱いやすかったため、次第に使用されなくなっていきました。
さらに、家康の死後には製作技術が継承されず、『活字印刷』は日本に根付くことはなかったため、現存するものは大変貴重です。
『浮世絵文化』が花開く以前に、実は『金属活字』がすでに日本に伝来していたことに驚かされます。
《浮世絵版画のできるまで》

『活字印刷』が根付かなかったことにより、代わって江戸の文化を華やかに彩ったのが『浮世絵版画』。
ここでは、葛飾北斎の代表作『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』が完成するまでの過程が展示されています。
最近べたきちは、『五大浮世絵師展』で本物の『神奈川沖浪裏』を鑑賞してきたため、よりいっそう興味深く見学することができました。

《吉原細見》 蔦屋重三郎刊


NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK公式サイト)で一躍有名になった『吉原細見』。
べたきちも特別展『蔦屋重三郎』(過去記事)で実物を見て感動しました。しかし、撮影禁止だったため写真には残せませんでした。
ところが、なんとここにも展示されているではありませんか!しかも、撮影可能!
混雑もなく、ゆっくり観覧できます。穴場スポットです。

《歴史的で著名な日本の書物》


杉田玄白、前野良沢、中川淳庵らが協力して翻訳・出版した、日本初の本格的な西洋解剖学書の翻訳書『解体新書 (1774年)』。
福澤諭吉が著した啓蒙書で、「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言えり」という一節で有名な『学問のすゝめ (1872年)』。
どちらも中学校の歴史の教科書で目にした記憶があります。
『解体新書』は近代医学の発展のきっかけをつくり、『学問のすゝめ』は明治時代の近代化と民主化を推進する原動力となりました。
そんな日本の近代史に多大な影響を与えた書物を間近に見ることができ、深い感銘を受けました。
《かつての上野の風景画》


『エッチング(腐食銅版画)』を日本で手掛けた司馬江漢による『不忍之池 (1784年)』と、『石版画』の技法で印刷された『東京上野公園之景 (1885年)』。
どちらの作品も、べたきちの地元・上野のかつての風景が写実的に表現されており、見慣れた景色の昔の姿に想いを巡らせるひと時となりました。
企画展 《黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版印刷文化》

15世紀に『金属活字』による『活版印刷術』を確立し、『印刷革命』を引き起こした『ヨハネス・グーテンベルク』。
本企画展では、『グーテンベルク』の功績と、彼の出生地であるドイツにおけるその後の『出版印刷文化』について、貴重な資料とともに迫っています。
見どころが非常に多く、選ぶのは難しいのですが、べたきち的に特に印象に残った2つを紹介します。
会期:2025年4月26日(土)~ 2025年7月21日(月・祝)
※写真撮影禁止
《42行聖書》
『42行聖書』とは、15世紀に『ヨハネス・グーテンベルク』が印刷した、世界最初期の活版印刷による聖書です。
各ページに42行の文字が印刷されていることからこの名があり、別名『グーテンベルク聖書』とも呼ばれます。
印刷革命の象徴とされ、近代の大量印刷と知識普及の始まりを告げた歴史的な書物です。
本企画展では、現存する冊数が少なく非常に貴重な※1『旧約聖書 (1455年)』と『新約聖書 (1454年)』が展示されています。
※1 全体の印刷部数は180部から200部程度と推定され、48部が現存している(うち12部は羊皮紙本)。(参照:慶応義塾大学メディアセンターデジタルコレクション「インキュナブラコレクション036『42行聖書』」)
《キリスト教界の改善について ドイツ国民の貴族に訴う》
『キリスト教界の改善について ドイツ国民の貴族に訴う』は、宗教改革の初期に極めて重要な役割を果たした、マルティン・ルターが1520年に発表した三大文書のひとつです。
この文書でルターは、ローマ教皇庁の腐敗を批判し、ドイツの貴族に対して、教会の権力に対抗するよう訴えました。
世界の歴史に絶大なインパクトを与えた『42行聖書』と『ドイツ国民の貴族に訴う』を実際に目にすることができ、その圧倒的な存在感に心を打たれました。
コラム 印刷と魔女狩り
世界的なベストセラー「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ノア・ハラリによる、2025年3月発売の最新作「NEXUS 情報の人類史」。

べたきちもゆっくりとではありますが読み進めており、ようやく上巻を読み終えたところです(2025年6月26日現在)。とても勉強になり、おもしろいです。
この上巻の第4章に登場する『魔女狩り』の記述が、現在開催中の企画展ともリンクしており、特に印象に残っています。
本書でハラリは、情報を「真実かどうかは関係なく、人と人との“つながり(NEXUS)”を形成する手段」と定義し、その観点から論を展開しています。
『グーテンベルク』の『活版印刷術』によって印刷物が大量生産されるようになると、魔女に関する書籍やパンフレットがヨーロッパ中に広まりました。
なかでも有名なのが、ハインリヒ・クラーマーにより1486年に出版された『魔女への鉄槌』※2です。この書籍は、ヨーロッパでベストセラーとなりました。
この中では魔女の存在やその悪行、撃退方法について記述されており、『魔女狩り』を正当化する理論的根拠となりました。
『魔女狩り』により、数万人もの無実の人々が拷問を受け、処刑されたとされています(正確な人数は不明)。
印刷は知識の普及に貢献した一方で、迷信や恐怖、陰謀論も同時に拡散し、『魔女狩り』という暴力的な社会現象を助長する手段ともなったのです。
インターネット上のフェイクニュースが世界的な社会問題となっている現代においても、新たな技術の発展には負の側面があることを、歴史から学ぶ姿勢は大切だと感じます。
便利な技術に支えられつつも、誤った情報に振り回されないよう、「疑う視点」を大切にしながら生きていきたい──そんな思いを抱く、今日この頃です。
※2 この内容については、下のYouTubeでわかりやすく解説されています。
最後に
さすが歴史ある大企業TOPPAN!想像以上に素晴らしい博物館でした。
次回の訪問時には、予約が必要な『印刷工房体験』もやってみたいと思っています。
まだまだいっぱい見どころはあるので、ぜひ現地で個人的見どころを発見してください!
また、ぜひ他のミュージアムの記事、谷根千の記事、障がい者割引の記事もご覧ください。
所在地
名称 | 印刷博物館 |
所在地 | 〒112-8531 東京都文京区水道1丁目3番3号 TOPPAN小石川本社ビル |
開館時間 | 10時〜18時(入場は17時30分まで) |
休館日 | 毎週月曜日(ただし祝日・振替休日の場合は翌日) /年末年始/展示替え期間 ※詳細は公式サイト展示予定スケジュールへ |
入館料 | 一般:500円(450円) 学生:200円(150円) 高校生:100円(50円) 中学生以下および70歳以上の方無料 ※企画展の開催時には、入場料が変更になります |
アクセス | 江戸川橋駅、飯田橋駅、後楽園駅などから徒歩の他 バスの各停留所からアクセス可能 |
公式URL | https://www.printing-museum.org/ |
最後までお読みいただきありがとうございました。ソークディー!




